yuyuの備忘録

読書記録、ときどき海外ドラマ。

「自由への道(6)」J・P・サルトル

海老坂武・澤田直
岩波文庫
2009

第三部、魂の中の死の続き。

続きといって良いのか分からないくらいに変わる場面と登場人物。

この巻のテーマは捕虜収容所の生活だけでなく、共産党内での議論。

自分たちがどうなるのか、どこへ向かうのか分からない捕虜たち。その中にブリュネもいる。党からの連絡はなく、そこで何とか仲間を集め始める。
ブリュネと行動を共にするのは新たに登場した謎の人物シュネデール。このシュネデールが読者を惹きつける。
初めて自主的に動いたブリュネが行ったのは彼らに規律と希望を与えること。ソ連が必ず助けてくれると仲間を鼓舞し、支持を広げていくこと。
それをさりげなく手助けするシュネデール。ドイツに行かされるのだと分かったところでこの章は終わる。電車の中で互いを探し、手を取る2人。

未完となった、奇妙な友情の一部。
ドイツでの捕虜生活。そこでの生活はシャレーがやってきたところから一変する。党からの連絡を受けているというシャレーはこれまでのブリュネの方針を批判し、平和路線でナチスとの宥和を進めるのだと述べる。
ここで明かされるシュネデールの正体。それを知ったブリュネはシュネデールと距離を置く決断をする。
ここで共産党員であるブリュネは考えず、ただシャレーの言うことに従うのみ。これまでの仲間たちに方針転換なのか、何を考えているのか、どうすれば良いのかと聞かれても何も答えられない。

ヴィカリオス(シュネデール)から収容所からの脱出を聞かされてブリュネが下す決断。
ヴィカリオスは最初は自分と同じような奴が破滅していくのを見てやろうという思いだったのかもしれない。友達にはなれないのかと聞かれて無理だというブリュネ。
だが、"奇妙な友情"は生まれていたのだ。ブリュネの「たったひとりの友だち」。
でも、党の方針から離れ、自ら考え始めた彼らに未来はない。

最後の解説に、結末の構想が記されていた。
定義が分かっているとは言い難いので違っているかもしれないが、登場人物がほぼ戦後まで生き延びないというその構想はフレンチ・フィルムノワールのよう。
その最たるものがダニエル。警察に拘束される際に死んでしまったフィリップのあと、自爆テロのような形で死ぬとは。

全体としてはひとつの小説の程をなしていないし、訳が分からないといえば分からない。
それでも部分としては面白い箇所もあった。なによりも、自ら考え行動することを知ったブリュネと仲間を得て共に行動することを知ったマチウとの再会の場面を読みたかった気もする。
構想されていたようなエンディングはちょっとやめて欲しいけれど。

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