yuyuの備忘録

読書記録、ときどき海外ドラマ。

「動物裁判 西欧中世・正義のコスモス」池上俊一

講談社現代新書
1990

タイトルに惹かれて購入。

ヨーロッパ中世において広く見られるという動物を被告とした裁判。
パロディのように行なっているわけでもなく、至って真面目に、人間の場合と全く同じような手続きのもと行われたという。
手続きに則り、呼び出しなども行われる。もちろんネズミやミミズ、蛾などが来ることはないが、数回にわたって呼び出しに応じない場合に初めて欠席裁判となる。

その事例は殺人から農作物への被害まで多種多様。
動物による殺人は飼い主の責任ではなく本人の責任とされ、人間と同じ手続きで死刑も行われる。最終的な一番の刑は破門宣告、というのがちょっと面白いところではある。

著者はあくまで動物裁判を中世の野蛮な習慣、というふうに見なしているようだ。
本当にそうなのだろうか。いくつも紹介されている事例から、個人的にはそうではないのではないかと思えた。
むろん、弁解能力もない動物を裁判にかけても良いのかというところはある。
しかし、動物側にもきちんと弁護人がつき、場合によっては情状酌量などもあるなど、野蛮だけではない部分もあるのではないだろうか。むしろ現代のヨーロッパでのアニマルライツ運動に繋がるものを感じた。

読み物としては、後半が動物裁判を生み出した文化の分析という大きなテーマに広がりすぎてしまったのが残念なところ。
半分以上がそれに割かれていて、動物裁判から大きく脱線しているように思えた。それらの分析は別に譲って、各地の裁判をまとめた表などを入れて動物裁判の記述をメインにした方が新書としては良かったのではないか。