yuyuの備忘録

読書記録、ときどき海外ドラマ。

「黎明 日本左翼史 左派の誕生と弾圧・転向 1867ー1945」池上彰・佐藤優

講談社現代新書
2023

池上彰佐藤優による日本左翼史シリーズの4冊目。戦前を扱った今回で最終巻。

池上彰佐藤優による左翼史シリーズは、共産党とは別の視点から日本の左翼氏を振り返る試みが必要なのではないかという思いから始まっている。結党100年を迎える共産党が2022年には何らかの出版物を出すであろうことが予想され、そのタイミングに合わせたものだった。
しかし、両氏の読みに反して共産党が2022年に党史を出版することはなかった。
満を持しての「日本共産党の百年」は、この本が出てから数カ月後の2023年10月に出たばかりだ。これについて2人がどのような評価をするのかは是非とも知りたいところ。

佐藤優自由民権運動に対する評価は厳しい。
左翼運動の黎明期。まだ右翼やアナーキストと未分化なところもあるけれど、議論も活発で面白いのは幸徳秋水大杉栄の時代あたりまでだろうか。

その後は政府の弾圧も激しい上に、ソ連が出来てからは基本的にはコミンテルンの指導方針に従ってゆく流れ。
弾圧され、リーダーが逮捕されても必ずソ連で学んだりした経験のある次の人材が出てくるのはすごいのだけれど。
戦況も厳しくなり政府の弾圧はますます厳しくなり、さすがに人材がいなくなってゆく。活動も暴力的な方向に走ったり、更にはリーダー格の中から転向者が一人出るとそれが波のように広がっていく。

戦後は、コミンテルンの指示にただ従うだけではない、別の形の社会主義共産主義も考えていた人たちが左翼史を作っていく。

気になったのは転向の部分。天皇制をひとたび認めてしまえば、あとは右翼にもなってしまう、そこの論理が分かるようで分からない。
他の部分が丁寧な補足も含まれていてわかりやすいだけに、そこをもうちょっと分かりやすく書いてくれたらなあとついつい思ってしまった。