yuyuの備忘録

読書記録、ときどき海外ドラマ。

「ベルリンは晴れているか」深緑野分

ちくま文庫
2022

一見外国の小説の翻訳のような、深緑野分の小説。
そのあらすじは、1945年、4カ国分割統治下にあるベルリンで少女アウグステが殺人事件の捜査に挑むというものだ。

アウグステとその相棒カフカが殺人事件の捜査に巻き込まれていくという大まかなプロットはある。だが、全体として読んだときに単なる部分の寄せ集めという印象が否めない。
歴史的な背景は面白いし勉強にもなるのだが、そこで肝心の登場人物たちが生き生きと動いているように感じられない。
肝心のアウグステの過去は事実が描写されるものの、彼女の性格がほとんど見えてこない。カフカにしても、成り行きからアウグステと一緒に旅をすることになるのだが、そこで何か化学反応が起きているというわけでもない。キャラクターに魅力があまりないため、ナチス下ではドイツ人がユダヤ役を演じていた歴史があって、そういう人たちも戦後苦しんだんだなあ、で終わってしまう。

ちょっと手助けしてくれるハンスやヴァルターも、登場人物として必要だったのか疑問。ナチスの少数者への迫害の凄まじさを入れ込みたかっただけではないだろうかと推察する。

ナチの残党、映画会社のウーファ、ソ連、4巨頭会談などなど、描きたい背景が多すぎて絞りきれていないことが一番の問題だろう。おそらく作者が描きたかったのは登場人物ではなくて背景なのだろうし、しかもその背景もどこを切り取りたいのか絞りきれていない。

登場人物のなかで唯一良かったといえるのは、ドブリギンの部下のベルパールイだろうか。彼の生い立ち、軍人に徹底した振る舞いの中にたまに見える青年らしい表情、そしてしょせん自分は駒でしかないという諦めのような心情も描写されていた。

全体がそんなふうなので、殺人事件についてもどうもすっきりしない。ドブリギン大佐の意図や行動の背景など、いろいろ盛り込んだはいいもののしっかりと最後まで描ききれていないと思う。肝心の殺人事件が物語の軸になっていない。

歴史が好きな人、映画が好きな人には面白いのかもしれない。でも、個人的には各章の間に挟まっている「幕間」すらも煩わしいと感じた。