yuyuの備忘録

読書記録、ときどき海外ドラマ。

「モーパッサン短編集(三)」

青柳瑞穂訳
新潮文庫
1971

3冊刊行されている新潮社のモーパッサン短編集。
フランスの作家、モーパッサンについて。
1850年、ノルマンディー生まれ。普仏戦争に従軍。30歳のときに発表した「脂肪の塊」が評価され、次々と作品を発表。神経系の病気に苛まれ、42歳で精神病院で死去。
(参考:ギィ・ド・モーパッサン 光文社古典新訳文庫

あとがきによると、故郷ノルマンディーものが第一巻、パリものが第二巻、そして戦争とオカルトものが第三巻というふうに分かれているそうだ。

ひとくちに戦争ものといっても、パリの市民の戦争と、農村の人々の戦争と両方が含まれていて、大きく様相が違う。
冒頭に収められた「二人の友」は、唯一の楽しみである釣りを久々にどうしてもしたくなり、出かけて行ってスパイと間違われてしまう2人のパリ人の話だ。そこにある諦めのようなもの。
対照的なのが、いくつかの短編で描かれている、農村の人たちの一種の残酷さだ。ドイツ人に敵意を持っていたわけでもなく、素朴に暮らしていた人たちが、家族を戦争で奪われるなどのきっかけで、行う壮絶な行為。そこにあるのは大きな大義や思想などではなく、ただただ家族を奪われた悲しみだけだ。

戦争もののなかで異色なのは「口髭」だろうか。
男性の口髭がいかに性的に魅力的かを友人宛の手紙の中で語った、一見戦争とは関係ない作品。こんな手紙でも、最後はフランス兵士の遺体の立派な口髭の話で終わる。

オカルトものでは代表作、「オルラ」も収録。日々の自然の美しさを主人公が満喫しているところの描写が本当に美しくて、なおいっそうそこからの展開が恐ろしい。

良い作家は作品に共通するイメージがある作家だと大江健三郎が書いていた覚えがある。
短編集、それも第三巻を読んだだけなので確かなことは言えないが、モーパッサンの場合は水辺と水面の光だろうか。
戦争やオカルトというテーマではありながらも、美しい自然の描写も堪能できる贅沢な短編集といえるかもしれない。