yuyuの備忘録

読書記録、ときどき海外ドラマ。

「自由への道(4)」J・P・サルトル

海老坂武・澤田直
岩波文庫
2009

第二部、猶予のつづき。

ミュンヘン会談がまとまるまでの数日。情報が錯綜し、人々が一喜一憂する姿が描かれる。
今となっては失敗に終わった宥和政策として片付けられるようなミュンヘン会談だが、当時の人々にとっては平和、そして自分たちの命が懸かった大事な会談だったことが分かる。
オデットやジャック、ボリスを含め、状況を知ろうと懸命にラジオを聴く人々の姿が印象的。

マチウがメインに戻ってきて、全体として読みやすくなった後半。

オデットとの別れは、自分が大切にしているものがあるのではないかとマチウに思わせる。
そしてゴメスとの再会。戦闘に身を置き、闘い続けるゴメスはマチウ含むフランス人とは対照的だ。スペイン人のゴメスは冷めた視点でフランスというものを見ている。

マチウはその後少しの間戻ったパリでイヴィックと再会する。そこでイヴィックが見たマチウは別人だ。動員されたことで世界は変わり、マチウの"分別ざかり"は終わっていることが分かる場面。

列車に乗ったマチウ。
彼がヒトラーの演説をラジオで聴くことはないが、ここでも情報は錯綜していて、列車から見えた飛行機で車内は騒然とする。
これが敵機ではなくミュンヘン会談を終えたダラディエの乗る飛行機だと分かり、平和ムードに湧く人々。

これが"猶予"でしかなかったと、当時どれだけの人が分かっていただろう。
歴史というまなざしで物事をみることがどれだけ難しいことか。歴史的な視点から今を見るなんて無理なのかもしれない。我々はいまを右往左往しながら生きるしかないのだろうか。

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