yuyuの備忘録

読書記録、ときどき海外ドラマ。

「ラスプーチンが来た」山田風太郎

文春文庫
1988

日露戦争ではロシアに潜入して工作を行い多大な貢献をした明石元二郎。その彼の若かりし頃の物語。
どこまでが史実で、どこまでがそうではないのか分からない、山田風太郎作品の魅力が全開。司馬遼太郎坂の上の雲を読んでいる人にはかなり楽しめるのではないだろうか。

物語に登場する稲城黄天と下山歌子。モデルはいるが親族からの抗議もあり名前が変えられているという。描かれ方をみれば抗議が来てもおかしくないか、というくらいどちらもアクの強いキャラクターである。

明石の物語は、川上操六から乃木希典の2人の息子が見たという幽霊を退治してほしいと頼まれるところから始まる。それが縁で乃木の馬丁の津田七蔵と出会い、さらにそれが雪香という美女との出会い、そして稲城黄天、更にはラスプーチンと繋がってゆく。

津田七蔵という名前からなんとなく話の流れの想像はしていたのだが、そこに前半生のよく分かっていないラスプーチンを絡めた話の筋はお見事としかいいようがない。更に傍観者のような立場で物語に出てくる二葉亭四迷や、チェーホフも魅力的だ。

後半にいくにつれ歴史というより奇怪小説に寄ってゆく感じがある。ラスプーチンの圧倒的な存在感もあり、明石の登場場面そして存在感も減ってゆく。
日露戦争を見据えた上でのあえての結末なのだろうけれど、明石には良い結末が待っていてほしかったと思ってしまった。