yuyuの備忘録

読書記録、ときどき海外ドラマ。

「ヘンリー六世」ウィリアム・シェイクスピア 松岡和子訳

ちくま文庫
2009

リチャード三世のあと続きで読みたいと思いつつ、値段が結構するなあと思っているうちに間が空いてしまった。

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描かれるのはジャンヌ・ダルクも登場する100年戦争末期から薔薇戦争
国内の政局対立が戦場にも持ち込まれ、フランスでの戦いは窮地に立たされる。そして更にその対立が王位継承権をめぐる薔薇戦争へと向かってゆく。

親子や兄弟、更には同じ名前でも代が変わっていたり、人が変わっていたりとかなりややこしい。解説によると、シェイクスピアが史実と異なる形で親子を同じ人物にまとめていたりする箇所もあるようだ。
そんなややこしいヘンリー六世だが、読んでいて心惹かれる登場人物が多かった印象。まず挙げられるのはフランスでの戦い、ジャンヌ・ダルクと対するトールボットだろうか。そしてクリフォード親子、王妃マーガレット(ヨークを捕らえた場面はかなりの迫力)、ヘンリー六世の息子の皇太子エドワード、ウォリックなどなど。

タイトルのヘンリー六世は、心優しい優柔不断な青年という人物造形。
グロスターを信頼していながらも、彼が政敵によって暗殺までされるのを止めることも出来ない。そしてヨーク公爵から自らの王位の正当性を主張され、それを受け入れて王位を息子ではなくヨークに譲ることを受け入れてしまう。それらは気の優しさ故といえるだろうか。
フランスからやってきた気の強い王妃マーガレットらに時には流され、意思がはっきりせず、それが戦局を混乱させてゆく。

また、父と子が多く描かれているのも特徴的だろう。
戦場でともに戦うトールボットやヨークなどの親子、そして殺されたもののかたきを討つ子や親。ヘンリー六世が眺める戦場において、気づかず親を、そして子を殺めてしまった名もなき2組の親子。

刻々と変わる戦況とそれに流される個々の描写が存分に楽しめる一冊だった。