yuyuの備忘録

読書記録、ときどき海外ドラマ。

「ガリア戦記」ユリウス・カエサル

國原吉之助訳
講談社学術文庫
1994

カエサルが記したガリア戦記。紀元前58年~51年のガリア、ゲルマニアブリタニアへの遠征の記録で、ラテン語の名文とされている。
カエサルは名文家なのだと実感したのは最後の章。この8年目の戦争の章だけアウルス・ヒルティウスが著しているのだが、そこに入った途端に読み進まなくなった。

カエサルが記しているがこの本、全体を通して3人称で書かれている。そのため最初はちょっと戸惑う。
カエサルが来たと知って兵は皆奮起、とかカエサルの的確な指示によって~、カエサルの功績を称えてローマの街は~とか。清々しいほどに自分の正当性と成果を強調し都合の悪い部分はスルーしている。

そもそもが馴染みのない「ガリア」。現在のイタリア北部からフランスにかけて、ケルト人が住んでいた地域を指すそうだ。
そのケルト人(ガリア人)に加えてガリアに侵入してくるゲルマニア人、更にはブリタニア人が次々登場する。彼らは部族名で細かく記載されており、なかなか厄介だ。巻末の地図を見ながらでもついていけないところもある。読み進めるのには多少の根気が必要だ。

冒頭でまずカエサルケルト人(ガリア人)を3つに分け、それぞれの特徴を分析している。
驚くのはカエサルの分析力。ガリア人について基本的には野蛮な人々としながらも、彼らの分析は怠らない。どういう時に一致団結しローマに立ち向かってくるか。彼ら特有の心理傾向はどんなものか。指導的役割の人物は誰なのか。
優れた戦争指揮官としての面をうかがい知ることが出来る。カエサル自ら書いているため、読者が偉大なる指導者と感じるように執筆しているだけかもしれない。それも含めてすごいとしか言いようがない。

一括りに軍記物といっても、日本の軍記物とは全く違う。
例えば平家物語の、基本的には敗者の側を情感を誘うようなストーリーとは180度違う。そういう文化の違いも感じられて面白い一冊。