yuyuの備忘録

読書記録、ときどき海外ドラマ。

「花田清輝」(ちくま日本文学全集)

1993
筑摩書房

花田清輝を知ったのは、猪瀬直樹三島由紀夫伝だ。
そこで引用されている仮面についての考察が強く印象に残っている。三島や太宰が常に自分に向けて仮面をつけていたというような内容。

花田清輝の本はほとんどが絶版。
今までに読んだどの評論とも違う、不思議な感覚だった。文体か、それとも論旨の持ってゆき方か。

収められている評論はどれも冒頭、読者をかなり引き込む。
例えば、冒頭に収められている「女の論理-ダンテ」の書き出しはこうだ。

三十歳になるまで女のほんとうの顔を描き出すことはできない、といったのは、たしかバルザックであり、この言葉はしばしば人びとによって引用され、長い間、うごかしがたい事実を語っているように思われてきたのだが、はたしてこれは今後なお生きつづける値うちのある言葉であろうか。人間の半分以上をしめている女のほんとうの顔がかけないで、男のほんとうの顔がかけるはずはない。

これは面白いと思って読み進めると、だんだんと分からなくなっていき、最後はわからないまま終わってしまう。

仮面についての話があるのだが、戦中の記憶からか、能面への評価がすこぶる低い。ここまでこきおろしているのも珍しいのではないか。

扱うテーマもちょっと他とは違っている。
歴史小説のようなものが数編。戦国時代の宣教師たち、特にカルモナの話は面白かったし、奈良の南朝の話もわからないなりに面白かった。
更には浪曲についての考察も。これに関しては背景知識がほぼないのでさっぱりだった。

日本の多くの知識人はドイツやフランスなど、どこかにベースを置いている印象が強いが、それが感じられないのが花田清輝。強いて言えばイタリアなのだろうか。
とにかく読み慣れないと難解でしかないので、作品をもっと再版してほしい。